資金計画作成上の留意点について

これまで、事業の採算経営ということで、現在の事業規模を賄うための必要利益確保を前提とした販売計画・仕入及び経費計画作成上の留意点について見てきました。この創業計画作成上の基本は、創業時の必要利益を確保するための活動目標を明らかにする事にあった訳ですから、この計画をPDCAサイクルに従って旨く回して行ければ、それなりの結果を得ることが出来ます。ただし、結果である必要利益(目標利益)を裏付ける資金が手元に残る場合に限ります。資金は、人間に例えれば血液と一緒ですから、血液の循環がストップすると、事業活動は終焉を迎える事になります。資金は、運転資金(商品や原材料仕入、人件費並びに月々の諸経費)と設備資金(事務所や店舗、機械設備・器具備品、車両運搬具等の投資資金等)に分けられますが、必要売上高(必要利益)を裏付ける資金計画作成上の留意点を最後に見ることにします。

(1)損益と資金の違い

損益上儲けは、収益−費用=利益で計算されます。資金上の儲けは、収入−支出=余剰資金で計算されます。収益と収入及び費用と支出が一致すれば、利益と資金余剰は一致しますから、損益上の管理をしっかりと行えば問題はないはずです。従って、売上や利益があがっておりさえすれば、資金もついてくるので大丈夫という事に成るわけです。ところが、収益と収入及び費用と支出が一致しない場合があるのです。その代表が、以下の4つです。即ち

[1] 収益と収入の計上時期による違い
[2] 費用と支出の計上時期による違い
[3] 損益計算に現れない収入の存在
[4] 損益計算に現れない支出の存在

[1] 収益と収入の計上時期による違い

収益は、原則として商品やサービスを販売したときに計上されますが、収入は金銭の受け入れをもって計上します。

例えば、商品を掛けで売上げた場合損益計算では、(借)売掛金(貸)売上と仕訳して収益に計上しますが、資金計算では、1か月後に売掛金を回収した時に(借)現金(貸)売掛金と仕訳して収入に計上することになります。これが、収益と収入の計上時期による違いです。その他にも、手形売上、未収金等があります。

2)費用と支出の計上時期による違い

費用は、原則として商品やサービスを購入したときに計上されますが、支出は金銭の支払いをもって計上します。

例えば、商品を手形で仕入れた場合損益計算では、(借)仕入(貸)支払手形 と仕訳して費用に計上しますが、資金計算では、3か月後の支払手形の決済日に(借)支払手形 (貸)現金 と仕訳して支出に計上することになります。これが、費用と支出の計上時期による違いです。その他にも掛仕入れ、前払金、未払費用、減価償却費等があります。

3)損益計算に現れない収入の存在

損益計算に現れない収入の代表例が固定資産(不動産・設備・器具備品・車両運搬具等)の売却です。

例えば、500万円の土地を800万円で売却した場合、損益計算では(借)現金800万円(貸)土地500万円、土地売却益300万円と仕訳けされます。つまり、損益計算では土地売却益の300万円は収益に計上されますが、土地の簿価500万円は収益に計上されません。このように、損益計算に現れない収入の存在があるために資金と食い違いが発生します。ちなみに資金計算の収入に計上されるのは、800万円です(この場合、収益と収入の食い違いは、500万円です)。

4)損益計算に現れない支出の存在

損益計算に現れない支出の代表例が固定資産(不動産・設備・器具備品・車両運搬具等)の取得です。

例えば、車を200万円で購入した場合、損益計算では、(借)車両運搬具200万円 (貸)現金200万円 と仕訳されます。つまり損益計算ででは200万円の支出は計上されません(200万円は、資産として計上されます)。このように、損益計算に現れない支出の存在があるために資金と食い違いが発生します。ちなみに資金計算の支出に計上されるのは200万円です(費用と支出の食い違いは200万円です)。

以上のように、収益と収入及び費用と支出には食い違いが発生するために、損益計算と資金計算は一致しません。事業者は、このことを踏まえて必要利益を裏付ける必要資金の確保を念頭に置いて創業時、創業後の計画を作成しなければならないのです。

(2)必要利益を裏付けるための資金計画作成上のポイント

(1)で損益と資金の違いの概要を見ました。事業者の場合、この損益と資金の食い違いが最も顕著に現れるのが、仕入れと在庫です。もちろん、人件費を初めとする月々の諸経費の支出もしっかりと把握して資金の出と入りの資金計画を作成しなければならいのは言うまでもありませんが、これらの支出は固定的支出になりますから、必要利益を裏付けるための資金計画は、適正な仕入計画と在庫計画にあると言っても過言ではありません。

1)適正な仕入計画について

一般的に事業者の場合仕入れに関しては、掛仕入れが普通です。従って、費用と支出の計上時期のずれによる損益と資金の食い違いが発生します。この食い違いを確認するために、各月ごとに[1] 1か月の現金仕入に、[2] 月初めの買掛金をプラスし、[3] 月末の買掛金をマイナスして、その月の仕入れに関する資金計算上の支出を把握します。この1か月の資金計算上の支出金額と現金売上による収入金額との差額が、目標とした限界利益額(粗利益額)にほぼ近い数値であれば損益と資金の調和がとれているという事になります(厳密には、次の2)の在庫の資金計算を加味する必要があります)。もし、相当程度の食い違いがある場合には、その原因を検討し対策を打たなければなりません。なお、資金計画上の仕入れに関するポイントは以下の通りです。

[1] 売れ筋商品をしっかりと見極め、経験と感覚に基づく安易な仕入れを排除する
[2] 顧客動向(消費者ニーズ)をしっかりと分析検討し期待思惑仕入れを排除する
[3] 大量仕入れは極力押さえ補充量をチェック(記録)して適正な仕入計画を練る

2)適正な在庫管理について

事業者にとって、在庫は現金が姿を変えたものに他なりません。従って、これら在庫の増減は、資金の増減そのものだと言っても過言ではありません。つまり在庫が増えた場合、資金が在庫という姿で寝ている訳ですから、在庫を積むために資金を支出したと考えられます。また、在庫が減った場合、寝ていた資金が回収されたと考えるべきです。そこで、毎月の在庫に関する棚卸を実施し(商品数量が多いでしょうが売上高に占める上位10品目だけでも実施する価値はあります)、月初棚卸と月末棚卸を把握して、在庫に関する資金計算を実施してください。即ち

[1] 月末棚卸額マイナス月初棚卸額の残額がプラスなら資金の持ち出し
[2] 月末棚卸額マイナス月初棚卸額の残額がマイナスなら資金の回収

と言う事になりますから、資金計算した在庫のプラス金額が大きければ直ちに資金繰りに影響して来ますので、原因分析して対策を検討しましょう。ちなみに資金繰りをスムーズにする適正在庫は在庫期間と売掛金回収期間の合計期間が、仕入債務支払期間内に収まる在庫を言います。資金繰り上、平均月商分を在庫量として持てば、資金は回る事になります。これらを念頭に置きながら、仕入と在庫に係る資金計画を作成します。

(3)資金計画を作成する場合の参考資となる資金効率について

事業者の中には、商品の回転には良く気を配っても、資金の回転については無頓着な方が多いようです。少ない資金でも資金効率を上げることで資金繰りを楽にする事が出来ます。従って、資金計画をこの資金効率のデータを参考にして作成するのも一つの考え方と言えます。なお、資金効率の主なデータは以下の4つです。

1)現金預金比率

現金預金比率は、当面支払わなければならない流動負債に対して、すぐに支払いに回せる現金預金がどのくらいあるかを示したものです。この指標は、100%以上ある事が望ましいです。

現金預金比率(%)=(現金預金合計÷流動負債)×100

2)支払債務回転率

支払債務回転率は、買掛金、支払手形と商品仕入高の関係を見たものです。この比率が高いほど、健全な仕入条件で仕入先と取引を行っていることを意味します。

支払債務回転率(回)=商品仕入高÷(買掛金+支払手形)

3)棚卸資産回転率

棚卸資産回転率は、資金繰り上の適正在庫を判断する指標です。この比率が大きいほど良いことになります。従って、割合が減少傾向にある場合には、在庫が増加していることになり、資金が在庫として寝ることになるので、原因を分析して対策を早めに打ちましょう。

棚卸回転率(回)=売上高÷棚卸資産

4)固定長期適合比率

この割合は、少なくとも100%以下である事が望ましいとされます。従って、この割合が100%を超えてきたような場合には、資金が固定資産として長期に寝ることになるので、事業能力を超えて固定資産を購入していないか吟味すべきです。

固定長期適合比率(%)=固定資産÷(自己資本+固定負債)


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