|
この連載記事は、筆者の身近で起きた事件をベースに「出会い系サイト」で起こりがちなトラブルのケースとして再構成してあります。
1.あり得ない出会い
15歳の女子中学生と45歳の男。10代の少女たちからすれば普通は自分の両親の年代であり、「おじちゃん」と呼ぶ、親娘の年齢差である。30歳差、つまり男が30歳の時に生まれた女の子だ。
これが20代や30代の女性と50代、60代の男性ならば、まれに結婚することもある。芸能人などに見受けられるパターンである。しかし、当たり前に考えれば、これだけの年齢差では恋愛になど発展しない。そもそも未成年と男女の仲になろうという40代の男性は、常識で考えればありえないのだ。もしくは、仮に願っても実現させることは少ないはずだ。
72歳で17歳の少女に恋をしたドイツの文豪ゲーテは、その失恋の苦しみを芸術に昇華させた。しかし、売買春という対価を介在させた関係を発端としたこの出会いは、芸術とはほど遠く、
見苦しい40男のストーカー行為、脅迫未遂事件へと発展していったのである。
その男と少女はいかにして出会ったか。「携帯電話の出会い系サイト」であった。
少女はごく普通の中学生であり、とくに目立ったり問題行動があったわけでもない。
「1回で、数万円は手に入る」という情報は、子どもたちの間では常識で、クラスの何人かはその経験があるらしいと少女も噂では知っている。中学生にとっては数万円というのは使うことはたやすいが、手に入れることは難しい金額である。
アルバイト?
通常のアルバイトならば、2万円を稼ごうとすれば自給が800円なら25時間。1日5時間働いたとしても5日間かかる。3万円を手に入れようとすれば自給800円で37.5時間。1日4時間なら
約10日間を必要とする。
地方のアルバイトなら自給は700円とすると42.85時間。1日3時間なら約15日間働いてやっと手にすることができる金額である。つまり半月はかかるのだ。
それが、2〜3時間付き合えば手に入るとなれば、若く思考力の浅い年頃ではつい・・・と、思ってしまう子も出てきてしまうだろう。この15歳の女子中学生も、どうしてもお金が必要だった。そして、援助交際すなわち売春を思い立ったのである。
「出会い系サイト」で、何人かとやりとりをした結果、その中で最高金額(3万円)を提示してくれた男と会うことに決めた。年齢は40代と言っていた、自分の父親と同じくらいだ。「お金をくれるオヤジ」と割り切った。
暗くなってからのほうが人目につかないと思い、約束の時間を午後7時にしていた。家族には友人と会うと言って出てきた。約束の場所に男はいた。
「あのぉ」
「あ、メールの人?」
「はい」
男は驚いたような顔をしている。ヤクザ風でもなく、ごく普通のおじさんに見えた。
「若いねー」
と、ニヤリとして感心するように、少女の全身を眺めた。
「じゃ、行こうか」
徒歩で、ホテル街へと向かう。歩きながら男はさりげなく、小さくたたんだ1万円札を差し出した。少女が手のひらでそれを確かめると3万円あった。
「あ、どうも」
うなずくように小さくペコリとして、バッグにしまう。先にお金を支払ってもらったことで、少女は男に従うことになった。お金をもらっただけで逃げてしまうとか、急に用事を思い出すとか、ごまかしたり、逃げることはしなかった。それだけ素直で単純な女の子だった。
援助交際をする少女に「真面目」という表現は合わないだろうが、「美人局」で男からお金を奪うような子たちからすれば、ある意味、真面目な子だといえるだろう。
男からすれば、ホテルの部屋に入る前に「やっぱりやめた」と逃げられないように、先払いにしたのだ。現金を受け取ればビジネスは成立する。あとは対価を支払ってもらうのだ。黙々と自分についてくる少女の背中を押して、ホテルに入っていった。
「9時半までに帰らなくちゃいけないので」
2時間後にホテルを出て、少女は急いで帰るそぶりをした。もう用事は済んだ。これで必要なお金を手に入れた。早く帰らないと家族が心配する。
「そうか。じゃ、タクシーで送るよ」
「いえ、いいです」
「自宅までは行かないよ。近くまで送るから。若い女の子が遅くに出歩いちゃ危ないよ」
その若い女の子にどんなことをしたのか、自分の言葉の矛盾にも気づかず、男はタクシーを止めた。少女は(自宅まではヤバイけど、近くまでなら大丈夫よね。どうせもう2度と会わないし)と思い、
「あ、じゃあ、スミマセン」
男に勧められるまま、タクシーに乗り込んだ。
(近くまで送ってもらえばラクだし、送ってくれるようなやさしい人だから多分大丈夫)
と思ったのだ。だが、乗り込んだタクシーの中での会話に、自分と自分の家族にとって恐ろしい出来事に発展する危険性がひそんでいることを、その時点では少女は知る由もなかった。(つづく)
|