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ある日

僕は朝ネジを巻かれて目を覚ます
一日動かなければ止まってしまう僕は、毎朝決まった時間にネジを巻かれて
ショーケースの中でオーナーとの出会いを待っている。
僕はロレックスディトジャスト、直径3センチの体の中に70個の部品を組み込まれ、
時を刻むために生まれた。

朝10:00 お店のオープンと同時にいろんな人がやってくる
友達でもあるブライトリングのショーケースでは、ロック岩崎風(パイロット)の男性が
白い手袋をはめたまま、着け心地を確かめている。
ジャガールクルトの前には上品な奥さんが買い物帰りにやってきた。
そうこうしているうちに僕のところにもお客様がやってきた。
30代前半の男性、この人が僕のオーナーだろうか
彼は近寄ると僕を興味深く覗き込む。少し照れながらもこの人の視線を感じていた。
突然マスターの説明を聞かぬまま5分と経たないうちに「これをくれ」と言ってきた。
支払いはアメックスゴールドカード、
・・・・・もしかして、
マスターはG−CATにカードをとおした・・・・・、
"このカードは利用できません。"
案の定カード偽造団だった。僕達はよく換金される為に買われてしまう場合がある
スイスで何ヶ月もの月日を経て生まれてきたのに、換金目的で購入された仲間達は
寂しそうにショーケースを出て行った。

時刻を知るためだけなら携帯電話でも用を足す。
クオーツ時計ならICのおかげで正確に時刻を教えてくれる。
それなのに、僕ら機械式時計の愛好家は長い歴史と共に国境を越えて増えつづけている。
何故だろう・・・・

身に付けているだけで何だか偉くなったような気がする、
確かにそのステイタス性も魅力の一つかもしれない
「あっ、あの人だ。」
僕はいつもに増して目を輝かせている自分に気がつく。
彼は何度僕のところへ足を運んでくれただろうか。最近では僕も何かを期待し始めていた。
いつものように僕を優しく手にとり
「○○ですよね。」「○○ですか?」と尋ねる。そしてマスターも誇らしげに僕の自慢話を始めるのだ。こうなったら僕はもうルンルンだ。
そんな中、マスターが彼に言った。
「こんな小さなケースに70個もの部品が入っていて、各部品がそれぞれ一つの目的
―時間を計る―に向かって動いている。時間の誤差を限りなくゼロにしようと
不器用ながらもせっせと努力している。そんな健気さに惹かれるんですよね。」
流石だ。決定的だった。しびれたぜ!僕のオーナーは幸運にも彼だったのだ。

人間の世界でも"最高の伴侶"に出会うことはどうやら大変のようだが、
僕ら時計にとっても「ご主人様選び」は大変だ。
まさに運命に任せるしかないのだから。
僕は何て幸せ者だろう。
そういえば初めて彼が来た時に"ビビッ!"ときたような気もする。

帰りにマスターが言った。
「機械式時計はオーナーの使い方によって一生懸命動いてくれますよ。
まるで生き物みたいに。」
そうなんだ。オーナーしだいで働き方が変わる。
ちょっぴりわがままかもしれないけど
それが僕ら機械式時計の「味」なんだ。

みつを

 

そんなご主人様をまっているショップ紹介  http://www.seikodo.org/


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